辛口の酒
・ 辛口の酒
辛口のお酒がよいと、飲みに行くとそうおっしゃるお客さんがおられます。ちなみに私もいわゆる辛口でキレのよい酒が好みです。
普通に辛口といっておりますが、辛口と塩辛いとは全然別ですよね。いったいどういう酒が辛口なのでしょう。
人が感じる味には五味といわれるものがあります。甘味、苦味、酸味、旨味、辛味の5つですが、日本酒には辛味の成分だけがないのです。甘味の成分はありますので、甘くない=辛いという評価になるのでしょうね。
では、日本酒の甘みはどのように作られるのでしょう。
日本酒やワイン、ビールなどの醸造酒は、糖分を発酵させてアルコールを生み出しますが、ビールやワインの原料である麦芽やブドウの実は、そのものに糖分がありますので、酵母を加えて直接発酵させる「単発酵」という方式で造られます。
一方、日本酒の原料であるお米の成分はデンプンで糖分は全くありませんので、このデンプンを糖分に変えることから酒造りが始まります。その役割を担うのが麹です。蒸したお米に麹を混ぜて、米麹と呼ばれる糖分を作り出します。
できた米麹に酵母と水を加えアルコールへと発酵させながら、同時に米と米麹もさらに加えることで、糖化とアルコール発酵を同時並行ですすめていくのです。こうした工程は日本酒独特のもので、「並行複発酵」と呼ばれます。
麹が作った糖分をほとんどアルコールに変えてしまえば、べたつかないすっきりとしたお酒になりますし、糖分を残したままアルコール発酵を止めれば甘みのあるまろやかなお酒ができあがります。
またそれ以外に、辛いと舌が感じる要因が2つほどあります。
1つはアルコールの度合いです。同じ糖分のお酒でもアルコール度が高いほど舌が感じる刺激が強いので、辛く感じます。
もう1つは酸味です。酸味は甘味を隠してしまうので、酸味が強いお酒は辛く感じます。
そうした成分を数値化したものが、日本酒度と酸度、それに甘辛度になります。
お酒によってはラベルに記載されているものもありますので、選ぶ際のご参考にされてください。
「日本酒度」はお酒に含まれる糖分を段階分けしたものです。専用の器具を使って測ります。糖分が多いお酒はマイナス表示に、少ないお酒はプラス表示になりますので、プラスの数字が大きいほど辛口だという目安になります。
「酸度」は醸造中に生み出されるコハク酸や乳酸、リンゴ酸などの量を表した数値です。酸っぱさよりも、キレを表す指標だと思ったらわかりやすいと思います。
日本酒度と酸度の組み合わせで感じる味わいの分類を、図にしてみましたのでご参考にしてください。
また「甘辛度」は、日本酒度という糖分の目安から酸度を引いた数値になります。辛口はマイナスで、甘口はプラスで表示されます。
計算式はややこしいのですが、ご参考にお示ししますので興味がおありの方は電卓をたたいてみてください。
甘辛度=193,593÷(1,443+日本酒度)-(1.16×酸度)-132.57
ちなみに、ごく普通のお酒の数値は日本酒度が+2くらい、酸度は+1.3くらいだといわれております。甘辛度を計算すると「-0.1」くらいですので、ちょうど中間あたりになりますね。
平成18年に都道府県別に造られたお酒について、日本酒度、甘辛度の平均を見てみますと、九州のお酒は甘口の方ですし、山口県や広島県も甘い方に入ります。長野県や新潟県、兵庫県は辛口の方ですし、高知県はしっかり辛いお酒が造られているようです。
全国、都道府県には様々なお酒がありますので平均にはあまり意味がないとは思いますが、地域性は何となく感じられますね。
なんにしても、味覚というのは人それぞれに違うものですし、甘口だろうと辛口だろうと、淡麗だろうと濃醇だろうと、人の好みは千差万別。あなたがおいしいと思ったお酒は誰がなんと言おうとおいしいのです。ぜひお好みのお酒と巡り会ってくださいね。
(平成22年6月)
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