桜と日本酒
・ 桜と日本酒
桜の季節です。日本人は本当に桜の花が好きですねえ。私もそうなんですけど。
満開の桜はなんとも華やかで幻想的で、時間が経つのも忘れて見入ってしまいます。そんな時間をお酒と共に過ごしたくなるのも仕方ないですよねえ。人それぞれに好きな理由があると思いますけど、なにか心の中のずっと奥深いところ、日本人には桜が好きなDNAが入ってるんじゃないかと思ってしまいます。
今回は、桜は桜でも桜鯛のお話です。
桜鯛とは春に産卵を控えて体を桜色に染めたマダイのこと。ちょうど桜が咲く頃にあがってきます。釣り人はこの季節を「のっこみ」と呼んで楽しみにしていますが、それもそのはず、産卵前の魚は脂がのって一番美味しい時期なんですよ。
産卵のため栄養をたっぷりとったうえに、春とはいえ冷たい海で身もしまり、タイは桜の季節が旬なのです。
もう引退してしまいましたが、東区箱崎にお爺ちゃんの板前さんが一人でやっている小さなお店がありました。お魚料理だけのお店で、刺身、天ぷら、煮魚など普通のメニューのほかに、4,5人で行くと箱崎漁港に揚がった大きなお魚を丸ごと一匹、フルコースで料理してくれました。出されるお酒は剣菱のみ。ブリ、シマアジ、アラカブなど仕入れは漁師さん任せですが、今頃の季節だとやっぱりタイだったですねえ。
思い出しながら桜鯛のフルコースをご紹介しますと、小鉢には皮の湯引き。熱湯にさらした皮を冷水で締め、ネギとポン酢でいただきます。弾力ある歯触りに噛むほどしみ出る鯛の脂がネギやポン酢の風味と絶妙に合います。そこで日本酒を一口。
透き通るようなぷりぷりのお刺身と内臓も使ったアラ炊き、鯛チリ。お酌を待つ手ももどかしく、はしたないとは思いながら手酌で美味しくいただいた後は雑炊でコース終了。胃袋の限界まで詰め込んだものです。
タイは姿の美しさもさることながら、クセがなく上品な脂の旨味が身上です。締まった白身からはほんのりと甘味さえ感じられます。
あまり個性が強いお酒ではなく、軽快で爽やかなものを合わせたいですね。ちょっと贅沢に、吟醸酒はいかがでしょう。華やかな香りの中に、後口がすっきりキレる爽快さが上品なタイの味に良く合います。
アラ炊きや鯛チリなど温かいもの、味が濃いもの、複雑な味わいのものには吟醸酒ではちょっと物足りないかもしれませんので、料理の味に負けない腰の据わった純米酒や本醸造酒をお燗にしていただくのもよろしいかも。
食卓では何種類ものお酒をいただくなんてなかなかできませんね。お金もかかるし。
箱崎の板前さんはかたくなに剣菱だけでしたけど、それもいいのだと思います。好きなお酒に出会えたら、あーだこーだの講釈抜きに楽しむ。本当はそれが一番美味しい飲み方なのかもしれませんね。
(平成22年3月)
a:1365 t:1 y:0